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の所属する海上安全部航行課には日本人は私一人です。当然、出席する会議や各種文書の作成、その他関係者との打ち合わせ等、通常業務から朝の挨拶、同僚との雑談、バカ話等のいわゆる日常会話まで、まさに酢の物のタコの如く英語に浸る毎日です。にもかかわらず、なかなか自分の理想とするレベルまで能力が達しないのは、誠に歯痒い限りです。今回の派遣に当たって受験した外務省による選考試験の第3次試験(担当者による面接)の際、試験官の一人が幾つかの国連機関で勤務された経験を持つ方で、私に「あなたも、ロンドンで勤務するようになり、半年も経てば、すっかりブリティッシュイングリッシュをしゃべってますよ。」と言われました。単純な私は、「そんなものかな……」と思いつつも、この「半年」という具体的かつ比較的短い「射程距離」に少し嬉しく感じたものでした。そして現在、1年と半年経ちましたが、ブリティッシュはおろか、アメリカンともアフリカンともつかない、怪しげなジャパニーズイングリッシュは全く変わらず、これで日々の仕事を乗り切っております。これは決して卑下しているわけではなく(尤も、楽観もしておりませんが)、英語には実に様々なバリエーションがあり、(特に、会話において)ネイティブの如くスラスラと流暢に喋る必要は必ずしもないという事にこちらに赴任してから気づいたからです。勿論、流暢に会話できれば、それに越した事はありませんが……。生まれてから、純日本人として生活してきた限り、これには限界があると思います。
特に、IMOなどという国際機関に身を置いていると、文字通り人種のるつぼであり、同じ英語でも単語のアクセント、イントネーションは勿論の事、時として用法、言い回しに至るまで、出身国若しくはその民族による特徴を見つけることができます。私自身、各種委員会、小委員会等、国際会議の場に限らず、発言者のスピーチを少し聞いただけで、どこから来た人間かおおよその見当がつけられるようになるのは、それほど時間はかかりませんでした。要するに、会話においては、しっかりした意思の疎通が図れればよいのであり、それができている限り、とっかえつっかえ喋ろうが、多少単語の用法が間違っていようが、ましてや発音がブリティッシュだろうがジャパニーズだろうが関係ありません。むしろ問題なのは、「滑らかな会話」或いは「さしさわりのない会話」を意識するあまり、無口になってしまったり、本当は理解していないのに解かったふりをして、その場をやりすごしてしまう事だと思います。これは、自戒の念を込めて書いているのですが、かくいう私も、赴任してまもなくの頃、一度
 

 

 

 

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